救急看護

気道緊急時の対応|救急ナースが知っておくべき手技

気管切開中の患者

気道緊急とは気道が閉塞し基本的な気道確保が困難な状態です

確実な気道確保なくして救命は困難であり、命に直結する手技でもあるので速やかに対応できるよう訓練が必要です

気道緊急の時には、輪状甲状靭帯穿刺や輪状甲状靭帯切開などの外科的気道確保により気道を確保します

救急で患者受け入れの際に顔面や頸部の損傷が疑われた場合は、外科的気道確保が必要かもしれないということを念頭において準備をします

Contents

外科的気道確保について

外傷で気道確保が必要な状態とは

  • 気道閉塞や血液や吐物による誤嚥の可能が高い
  • 顔面や頸部の外傷などで気道が損傷により気道狭窄をきたしている
  • 無呼吸や低換気、低酸素血症などの換気不全
  • 出血性ショックや心停止時
  • またGCS8点以下の意識障害や2点以上GCSが低下した場合
  • 瞳孔不同、片麻痺、クッシング現象がみられる

外科的気道確保の適応

外科的気道確保は輪状甲状靭帯を穿刺したり切開して気道確保する方法です

外科的気道確保は気道緊急であるが経口挿管ができない時や気道緊急でなくても経口挿管が困難であり

ビデオ喉頭鏡や声門上器具などを試しても挿管できない時に適応となります

輪状甲状靭帯の部位

頸部の解剖

輪状甲状靭帯は甲状軟骨と輪状軟骨の間にある靭帯です

甲状軟骨は挿管時にBURP法圧迫する部位です

輪状軟骨はフルストマック時のセリック法で押さえる部位です

輪状甲状靭帯は気管軟骨を切開するよりも、皮膚から近い部分です

比較的血管や神経も少ないので緊急で挿入するのに適しています

BURP法やセリック法についてはこちらの記事を参照してください

全身麻酔の導入
全身麻酔導入時の介助方法と看護のポイント

今回は麻酔の導入方法についてのテーマですが、初療搬入時や急変時の挿管方法の知識としても役立つ内容です あくまでも基本的な流れの一例ですので、医師の指示のもと症例に応じた対応が必要です Contents ...

続きを見る

輪状甲状靭帯穿刺

輪状甲状靭帯穿刺の適応

経口挿管が困難でラリンゲルチューブやアイジェルなどの声門上器具による呼吸状態が維持できない場合に行います

必要物品

  • 消毒
  • 14Gサーフロー針(末梢ルート確保用の針です)
  • シリンジ5mlか10ml
  • 7.5mm挿管チューブのコネクタ部分

輪状甲状靭帯穿刺のながれ

頸部を消毒し、シリンジを装着したサーフロー針で45度の角度で上から輪状甲状靭帯めがけて穿刺します

エアーが引ければ気管に入っています

内筒を抜去し7.5mm挿管チューブのコネクタを装着するとBVM(バックバルブマスク)換気が可能になります

十分な酸素を投与するには、内腔が狭いためかなりの圧が必要です

高圧ジェット換気という方法がありますが、酸素化はできても、二酸化炭素の排出が困難なため

すみやかに確実な気道確保を行い通常の換気をするべきとされています

つまり一時しのぎであるということを理解しておきましょう

輪状甲状靭帯穿刺後の注意点

穿刺が深すぎると気管壁や食道損傷を起こす可能性があります

14Gの細い針が入っているだけなので、十分な換気ができず高二酸化炭素血症をきたしやすいです

また気管内吸引ができないため血液や嘔吐による誤嚥などに注意が必要です

メモ

ミニトラックⅡやトラヘルパーなど商品化されているものがあります

病棟では抜管後の排痰困難な症例などで挿入する場合があります

細いサイズの吸引チューブしか入らないなどの注意点もありますので、添付文書を参照してください

輪状甲状靭帯切開

輪状甲状靭帯切開の適応と禁忌

経口挿管や声門上器具による挿管が困難な場合に行われます

12歳以下の患者は気道が細く、声門下が狭窄するリスクがあるため禁忌です

必要物品

  • 消毒
  • スピッツメス
  • ペアン
  • 気管チューブ(気管切開チューブか挿管チューブ5~7mm)
  • 挿管チューブの場合はスタイレットもセットしておく
  • ゼリー
  • カフ用シリンジ
  • 固定具
  • ガーゼ
  • 吸引の準備
  • 必要時局所麻酔の準備
  • 挿管チューブを絹糸で固定する場合は縫合の準備が必要です

輪状甲状靭帯切開のながれ

頸部を消毒します

皮膚をメスで横切開したら、輪状甲状靭帯を切開します

ペアンで切開孔を広げます

ペアンを把持したまま頭側に倒し、ペアンに沿わせて気管チューブを挿入します

カフを膨らませ、換気します

挿管時と同様に左右の呼吸音を聴取します

挿管チューブの場合は深く入れすぎると片肺挿管になるので注意しましょう

確実に固定し、事故抜去に注意しましょう

介助のポイント

イソジンは直接頸部にかけます

メス→ペアンの順に渡します

チューブにゼリーを塗っておき、切開孔が広がれば渡します

カフ用シリンジでカフを膨らませ、換気します

輪状甲状靭帯切開後の注意点

気管チューブ挿入後は胸部レントゲンで位置を確認します

皮下気腫が出現していないか、換気が出来ているかを観察します

気管切開との違い

一般的な気管切開では気管軟骨(第2-4)を逆U字に切開することが多く、長期の気道管理に向いています

また肩枕を入れて頸部を後屈させる必要があり、止血操作などで気道確保までに時間がかかるため緊急時には行いません

外科的気道確保では細いチューブでの気管管理になるため気道抵抗が増し、閉塞のリスクがあります

そのため患者さんの状態が安定すれば改めて気管切開をします

気道確保困難時のデバイス

気道確保が困難な場合は、さまざまなデバイスを使用します

症例やDrの好みもあるかと思いますがよく使用されているデバイスの使用方法や用途は理解しておくと良いと思います

ビデオ喉頭鏡による気管挿管

エアウエイスコープとMcGRATH

エアウェイスコープ  AWS-S200

エアウェイスコープはブレードの先端にCCDカメラとLED照明がついており、本体にイントロックを装着します

イントロックにゼリーを塗った気管チューブをセットして、モニターで間接的に見ながら挿管します

イントロックは喉頭鏡でいうブレードの部分です

イントロックに挿管チューブを固定するので、スタイレットが不要です

イントロックは気道の解剖学的湾曲の形になっているので、初心者でも喉頭の観察と気管チューブの挿入が容易だと言われています

そのため頸部を伸展せずに挿管ができるので頸椎損傷の疑いのある外傷症例などに有効です

コードを接続すれば大きなモニターでも画像をみることが出来ます

イントロックに気管チューブをセットするのでダブルルーメンチューブなどは使用できません

MⅽGRATH™ MAC

McGRATH(マックグラス)は本体にブレードをセットするだけですぐに使用できます

一般的な喉頭鏡と同様の挿入方法で、スニッフィングポジションが必要です

マッキントッシュ型のブレードで画面を見ながらでも直視下でもどちらでも挿管可能です

顔を近づけなくてもいいのでcovid-19が疑われる場合や開口制限がある場合に推奨されています

ディスポーザブルのブレードが安価なのでよく使用されています

内視鏡下での気管挿管

開口制限や開口障害時、頸部の後屈が困難である場合は内視鏡下で気管挿管することがあります

あらかじめ内視鏡に挿管チューブを通したうえで、気管分岐部まで内視鏡を挿入し挿管チューブを進めます

内視鏡で挿管チューブの位置を確認したら、内視鏡を抜去し挿管チューブを固定します

イントロデューサーを使用した気管挿管

喉頭鏡やビデオ喉頭鏡下でチューブイントロデューサーを気管に挿入しガイドとして気管チューブを挿入する方法です

ガムエラスティックブジー(GEB)というものがよく使用されています

ガムエラスティックブジーは先端が湾曲している形状です

挿管時には声帯周囲を覆っている披裂部に引っかかることがあります

ブジーを回転させることで先端の湾曲部分が回転し引っかかりを解除し挿入方向を調整できます

声門上器具を用いた気道確保

i-gelによる挿管
  • ラリンゲアルマスク(LMA)や アイジェル(i-gel) はカフが喉頭口を密閉し、マスクの上部を声門上部に密着させて気道を確保します
  • コンビチューブやラリンゲアルチューブは盲目的に挿入し食道に挿入するしくみになっています
  • 喉頭展開せずに挿入できるのがメリットです

ラリンゲアルマスク(LMA)

ラリンゲアルマスクやコンビチューブ、ラリンゲアルチューブは救急救命士が特定行為で挿入することが多いデバイスです

カフは50ml程度必要なので50mlのシリンジが必要です

私の施設では搬入後は通常の挿管チューブに入れ替えています

アイジェル(i-gel)

アイジェルは短時間の手術の際に使用することがあります

カフを膨らませなくてよいので5秒で装着できます

ゼリーを塗っておき挿入したら固定します

コンビチューブ

二重構造のチューブに先端に小さい食道用のカフと咽頭を塞ぐ用の大きいカフが付いています

1本のチューブは先端が開口しておらず、側孔が空いています

もう1本のチューブは先端が開口しています

食道でも気管でもどちらに挿入されてもどちらかのチューブに接続すればよいという構造になっています

食道挿管をするので食道に疾患がある場合は禁忌です

またチューブ自体が固く、食道損傷のリスクがあります

ラリンゲアルチューブ(LT)

1本のチューブにカフが2つ付いており、食道挿管をして使用します

2つのカフの間に換気口が数か所空いており、気管に送気するしくみになっています

食道に挿入される部分が短くコンビチューブに比べて、食道損傷のリスクが低いとされています

声門上器具は一時的な使用にとどめ呼吸状態が安定すれば気管挿管に入れ替えます

まとめ

気道緊急による外科的気道確保の方法は輪状甲状靭帯穿刺と輪状甲状靭帯切開がありますが

三次救急の現場では輪状甲状靭帯切開がほぼ第一選択として行われています

気道確保困難時に使用するデバイスは各施設によって違います

緊急時に使用するものなので、使用方法や介助方法などを熟知しておくことがとても重要です

-救急看護