REBOA(レボア)は先端にバルンが付いているカテーテルをセルジンガー法で大腿動脈より挿入し、大動脈内にバルンを膨らませて一時的に大動脈を遮断します
根本的治療ではなく、あくまでも一時的に止血し、出血をコントロールするために使用します
脳や心臓、肺などの重要臓器の保護し、ショックを改善することを目的としています
近年は外傷患者さんだけでなく、内科的疾患の止血にも使用されるようになりました
以前はオクリュージョンカテーテルやIABOと呼ばれることが多かったですが、最近はREBOA(Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta) という呼び名が浸透してきました
Contents
REBOA挿入の適応
下記症例の根本的治療(手術やIVR)までの補助として行われます
- 出血性ショックを伴う鈍的腹部外傷
- 骨盤骨折や下肢の動脈損傷
- 肝細胞癌破裂、大動脈瘤破裂、消化管や産科などの内因性出血
禁忌または注意が必要
- 大動脈にカテーテルを挿入するため、急性大動脈解離や未破裂の胸部、腹部大動脈瘤などの症例では禁忌です
- 大動脈が極度に蛇行していたり、石灰化している場合は血管壁やバルンを破損するリスクがあります
- 頭部・上肢からの出血がある場合は出血を増大させる可能性があるので注意しましょう
- 止血できていない胸部外傷も同様に出血を増大させる可能性があります
カテーテルの留置部位について
ZONE分類について
大動脈をZONE1~3に分けて分類しています
ZONE1は鎖骨下動脈から腹腔動脈まで、ZONE2は腹腔動脈から腎動脈まで、ZONE3は腹腔動脈から腎動脈までをいいます
基本的には横隔膜下の出血に対して、ZONE1に留置します
骨盤腔内からの出血の場合はZONE3に挿入します
ZONE2はZONE3と比べて付加的な効果がないこと、臓器虚血のリスクを高めるため基本的には留置しません
外傷の出血性ショックでは出血部位がFASTや胸部・骨盤X-Pで出血部位が確認できていれば、ZONE3へ挿入しますが
確認できない場合は後腹膜や管腔内の出血を考慮しZONE1へ挿入します
REBOAの留置位置は、単に出血部位によってのみでなく循環動態やその後の戦略などで決まります
ZONE分類の違い
ZONE1とZONE3ではZONE1にバルンを留置したほうが近位の血圧上昇が優位となるので、循環動態が破綻している状況下ではZONE1に留置するのが有効だと言われています
逆を言えば、バルンをZONE1に留置すると虚血の範囲を広げることになるので臓器虚血のリスクが高まります
REBOAの挿入について
デバイスの種類
RESCUE BALLOON®-ER 7Frのカテーテル(東海メディカルプロダクツ)
救急現場ではショック状態の患者さんを前にして、気管挿管の介助やルート確保などの処置が同時に行われます
REBOAのデバイスはキット化されており、挿入準備に手間がかからないようになっています
挿入前の準備
出血性ショックの場合にはREBOA挿入に先駆けて、4~5Frのシースを両大腿動脈に留置することが多くシースを使用すればより迅速にREBOA挿入がスムーズです
- REBOAの挿入準備(清潔台にREBOAキットを開封し消毒液、フラッシュ用の生食やバルン用の蒸留水を準備する)
- REBOAの効果を確認するため、橈骨動脈で動脈圧ラインを確保しモニタリングする
- 両足背動脈の触知の有無や色調を観察し記録する(REBOA挿入後に下肢の虚血状態を評価するため)
両側にシースを留置する目的はIVR用、動脈圧モニター用、REBOA用として使用できるためです
REBOA挿入方法~RESCUE BALLOON®-ER の場合
X線透視下で挿入するか、X-Pやエコーガイド下で挿入します
穿刺前の準備
- ガイドワイヤーを生食でフラッシュ
- シースも同様にフラッシュし、ダイレーターをセットする
- ダイレーターの内腔もフラシュする
- カテーテルの三方活栓に蒸留水シリンジをセットする
- バルンを陰圧にして三方活栓をロックしておく
- カテーテルからスタイレットを抜去する(後で使用する)
- カテーテルを生食フラッシュする
挿入手順
- 皮膚の消毒
- メスで皮膚切開する
- 付属のセルジンガー針で穿刺する(エコーを見ながら行う場合はエコープローベとプローベカバーが必要です)
- 内筒を抜去する
- 外筒からガイドワイヤーを挿入する(ガイドワイヤーの位置を透視またはエコーで確認する)
- 外筒を抜去する
- シースとダイレーターをガイドワイヤーを通して挿入する
- ガイドワイヤーが抜けないように注意しながら、ダイレーターだけを抜去する
- シースのサイドチューブから逆血を確認し、生食フラッシュする
- シースを固定する
- カテーテルをシース内から挿入していく
- カテーテルとシースをクリップで固定する
- ガイドワイヤーを抜去する
- スタイレットを挿入し、カテーテルにロックする
ポイント
スタイレットは血流でバルンカテーテルを押し戻されないようにするため重要な役割を担っています
スタイレットを挿入していない場合、血流でカテーテルが屈曲しカテーテルが抜去困難となることがあります
スタイレットが挿入されているか、必ずチェックしましょう
REBOA挿入中の管理について
カテーテル先端のバルンを膨らませることをインフレート
バルンをしぼませることをデフレートといいます
インフレート(大動脈遮断)について
バルンをインフレートすることで大動脈を遮断しますが、バルンのインフレートは橈骨動脈などの動脈圧モニターを見ながら目標の血圧になるまでインフレートします
カテーテルの規格でバルン蒸留水の最大量が決まっていますが、必ずしもすべて入れる訳ではありません
目標血圧に達したらそれ以上インフレートしないようにします(20~25ml程度で効果あり)
バルンを最大量までインフレートしても血圧が上昇しない時は、バルンの破裂・バルン位置が不適切、バルン留置部より上部の出血を疑います
完全に遮断すると循環を維持することが可能になりますが、血流を遮断した部位の臓器虚血、再灌流障害をおこすリスクも考慮する必要があります
ポイント
大動脈遮断後は大腿動脈の動脈圧モニターは平坦になるので、REBOA挿入時は橈骨動脈での動脈圧モニターが必要になります
左橈骨動脈でモニタリングしている場合に、インフレート後に血圧が低下すれば大動脈弓部にバルンが入っていることを意味します
その場合はバルン位置調整が必要となります
インフレート時間
大動脈遮断時間は30分以内にとどめ、すみやかにIVRや手術により止血します
- 30分以上の連続遮断が必要な場合は、数分程度の遮断解除を間欠的に行います
- 遮断解除は完全解除ではなく部分解除でも有効です、例えば「3mlデフレートして」というようにDrより指示があります
- デフレート後には必ず血圧低下が許容範囲であるか観察し、報告します
- REBOA挿入中は適宜インフレートやデフレートをするので、時間や量を記録し、合わせて循環動態の観察を継続します
ポイント
遮断時間が長くなると臓器虚血や再灌流障害に注意が必要です
45分以上は予後不良といわれています
そのためインフレートの量や時間を記録しておくことが重要です
デフレート
止血操作が終了すれば血圧を見ながら少しずつデフレートしていきます
血栓形成のリスクがあるため、止血が得られれば速やかにカテーテルを抜去します
症例によってはデフレートした状態でカテーテルを一晩留置しておくこともあります
REBOA挿入中の観察ポイント
- スタイレットが挿入されているか
- シースが皮膚に固定されており、生食またはヘパリン生食でフラッシュされているか
- REBOA本体のカテーテルとシースが固定されているか
- 三方活栓がロックされているか
- シリンジ内の蒸留水の量→最初に何ml注入されているか確認しておく必要があります
- 刺入部からの出血の有無
- 橈骨動脈圧ラインが正確にモニタリングされているか
- 合併症の兆候はないか
REBOAの管理も大事ですが、タイムリミット内で止血術が行えるよう治療の速度を落とさないようにすることがとても重要です
合併症
- 大動脈損傷、大動脈解離による出血
- 下肢の虚血(下肢の色調や冷感・足背動脈の触知など、挿入前から変化があるか観察します)
- 臓器虚血(腸管虚血、壊死・急性腎不全など)
- 挿入部の出血、感染・留置部位の血栓、空気塞栓(抜去時にも注意が必要です)
- 血小板減少症
- 血管攣縮
REBOA抜去の手順
- バルンを完全に収縮させる
- 縫合箇所を抜糸する
- シースが抜けないように押さえながら、バルンがシースの先端まで来るようにバルンカテーテルを引き戻す(マーカーがあるので目安にする)
- バルンカテーテルとシースを一緒に抜去する
- 30~40分間圧迫止血する
- 止血完了後、足背動脈の触知や色調の観察をする
- 枕子にて圧迫する、圧迫時間や安静度の指示を確認する
おわりに
骨盤骨折の手術で出血のリスクが高い症例でもREBOAをすぐに使用できるようにスタンバイしておくことがあります
開胸して大動脈をクランプするよりも、低侵襲なREBOAですが合併症なども理解しておく必要があります
長時間挿入するものではないので、あまり見る機会は少ないかも知れませんが救急では必須のアイテムです