手術

手術中の体温管理の必要性と注意点~外回り看護師が問われるスキル

麻酔で体温が下がる

手術室ではさまざまなモニタリングをしていますが、今回は体温モニタリングについて解説したいと思います

手術が長引き低体温になると、抜管ができなくなる、血が止まりにくいなどさまざまな問題が生じます

まさに患者さんの予後をも左右するといっても過言ではありません

これらの合併症は外回り看護師が麻酔科医と連携して予防することができます

この記事を読めば

  • 持続体温モニタリングはどうして必要なのか
  • 低体温になるとどうなるの
  • シバリングって実はこわい

ということが分かります

体温計

Contents

そもそも体温って何?

人間の体温は体温調節の中枢である視床下部によって、通常は代謝で発生する熱によって維持されています

また、中枢温を一定に調節するために、全身の血流分布が調節されています

自律性体温調節ってなに?

人間は恒温動物であり、体温調節機構には行動性体温調節と自律性体温調節の二種類があります

体温が低下するとどうなるの?

  • 中枢温が下がると末梢血管が収縮し血流を中枢側に移動させる(熱が抹消から逃げないようにする) 
  • さらに下がると骨格筋を収縮させて熱を産生するシバリングがおこる                            

体温が上昇するとどうなるの?

  • 中枢温が上がると末梢血管を拡張させる
  • さらに上がると発汗して熱を逃がす

これらを自律性体温調節といいます

手術中に低体温になる理由~麻酔が正常な体温調節機能を奪っている?

低体温症とは,深部体温が35℃未満となることである

麻酔薬の影響

  • 麻酔薬の影響で代謝が抑制され、その結果体温が低下します
  • 麻酔の血管拡張作用で中枢から抹消へ熱が分散される(再分布性低体温)→下記図を参照してください

デックスメデトミジン(商品名・プレセデックス)やプロポフォール

(商品名・ディプリバン)などの静脈麻酔薬や麻薬の使用でも体温調節機能を鈍らすということがわかっています。

熱の再分布

脊椎麻酔や硬膜外麻酔

全身麻酔だけでなく、脊椎麻酔や硬膜外麻酔によっても体温は低下します

交感神経抑制で末梢血管が拡張し、熱の放散が増大することで体温が低下します

全身麻酔でも区域麻酔でも30分以上の手術では中枢温を測定することが推奨されています

全身麻酔中の体温変化を知ろう

全身麻酔中の体温変化

麻酔中の体温低下の流れ(三相性に推移する)

第一相

麻酔開始から1時間で急激に体温が低下する

全身の血管拡張がおこり、熱が中枢から抹消に分散されて核心温が低下することで

体温が急激に低下する(再分布性低体温)


第二相

伝導・放射・対流・蒸発により熱量が逃げる。また熱量の産生も低下しさらに体温が低下する


第三相

核心温が34.5℃になって自律性体温調節が出現して血管収縮が起こり、下げ止まる

(熱損失は続くため体熱量は減少し続ける)

要するに麻酔開始からの1時間の体温低下が特に注意が必要です!!

低体温がおこりやすい因子

手術や環境の因子

術式などによるもの・・・広範囲熱傷・開胸術・開腹術時など

大量の輸液や潅流液の加温不足・室温

高齢者や甲状腺機能低下症・・・もともと代謝が低く低体温になりやすい

低体温になると何が問題なの?

シバリングがおこる

シバリングとは・・・

骨格筋が小刻みに収縮し、最大200~250回/分の不随意運動です

正常時に比べて6倍の熱を生産すると言われています。

シバリングが起こると血圧の上昇心拍数の増加酸素消費量の増大により、主要臓器への酸素不足心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上昇し、創傷治癒も遷延します。

レミフェンタニルには抗シバリング作用がありますが、術中しか使用できない薬剤であるため投与を中止すると血中濃度が低下します。      退薬症状の一種としてシバリングが起こりやすいとされています。           

体温調節の閾値が変化する

抹消血管収縮閾値とシバリング閾値の変化

自律性体温調節がおこらない体温域を閾値間域といいます

術前の状態のように0.2~0.3と狭いのが通常です

麻酔中にはこの閾値間域が広がり、サイトカインの影響で高温側へ移動します

術後は高温側へ移動したまま狭まるため平熱でもシバリングが起こりやすくなります

凝固異常

血小板機能が低下するため出血量が増えます

感染をおこしやすくなる

免疫機能の低下により感染をおこしやすくなります

麻酔からの覚醒が遅延する

  • 麻酔薬や筋弛緩薬の肝臓での分解や排泄が抑制される
  • 腎臓からの排泄も抑制される
  • 麻酔の感受性が増大しその結果、血中濃度が下がらない状態になる

以上の理由から麻酔薬や筋弛緩薬が残存し、麻酔からの覚醒が遷延します

特に高齢者では覚醒が遅延することで、抜管困難となりやすく予後に影響を及ぼします

心肺機能が低下している患者さんの場合、体温が35℃後半に回復するまでは麻酔から覚醒させない必要があります

低体温をおこさないために外回りナースができること

プレウォーミング(あらかじめ温めておく)

心肺機能が低下している患者さん長時間の手術で体温低下が予測できる場合は

病棟ナースと連携して術前より電気毛布などで抹消を温めておくことで再分布性低体温がおさえられると言われています

手術室でも麻酔導入前から加温するのも有効です

術中の保温・加温

  • 手術中は室温25°以上をキープ
  • 手術台を温めておく
  • ベアハガーなどの温風加温気を使用する
  • 加温した輸液を使用する(アミノ酸輸液なども有効)
  • 洗浄液の加温

それでも低体温が改善しない場合は麻酔科医と相談し、レンジャーやレベル1(輸液や輸血を加温する装置)の使用も検討する

正確な中枢温の測定

中枢温測定にはいろいろな方法があります

食道温・膀胱温・直腸温・肺動脈温など

術式によっては正確に測れないことも考慮しておく必要があります

高体温について

うつ熱

過度の加温や熱放出障害

成人よりも体温調節機能が未熟な小児がおこりやすい

発熱

輸血の副反応

感染

薬剤性発熱など

悪性高熱症

15分に0.5℃以上の体温上昇では悪性高熱症を疑いましょう

他の症状として原因不明の頻脈やETCO2の上昇・筋硬直などがあります

発症すると急速に進行し、1時間後に心停止をきたした症例もあります

悪性高熱症を早期発見する目的でも持続的に体温をモニタリングすることは、とても重要だということがわかります

まとめ

  • 麻酔中は自律性体温調節が抑制されるため低体温になりやすい
  • 低体温により麻酔からの覚醒遅延や凝固異常、術後感染のリスクが高まり、シバリングにより酸素消費量が増大する

シバリングは重大な合併症につながるだけでなく、患者さんにとっても非常につらいものです

手術中の体温管理はモニタリングのみに頼らず実際に自分の手で抹消温を確かめ

適切に体温管理をすることで患者さんの苦痛を最小限にすることができます

日々よりよい看護を目指してがんばりましょう

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